『鳥の詩』が沁みる/考察・感想

 こんにちは。

小山内藤花です。

 

今年は梅雨がだいぶ遅れていますが、もうすぐ明けそうですね。

梅雨が明けたら、夏が来ます……!(当たり前か)

ぎらぎらした太陽、耳を聾さんばかりの蝉の大合唱、風鈴、打ち水……

どんよりとした空模様が続くとき、夏、という語を聞くと、そんな明るいイメージが沸いてきます。

 

そしてまた、何とはなしに郷愁の念が……。

夏休み。お盆には祖父母の家に泊まりに行ったことや、花火を見たこと、友人たちと遊んだり、クーラーのついた居間で昼寝をしたり……。

などなどあったようななかったような朧げな記憶が去来するとき、きゅうっと胸が狭くなるようなどうしようもない思いに駆られたりします。

 

鳥の詩』はまさにそんな感情を聞くものに起こさずにはおかない曲かと思います。

 


【AIR】 鳥の詩 【高音質】

 

AIR』というアニメの主題歌だそうですが、

自分はこのアニメを見たことはなく、見よかな見よかなぁ、とか思いながらかなり時間がたっています。

 

ですが、この『鳥の詩』は繰り返し繰り返し聞いてます。

アニメを知るより前にどういうわけか知っていて、初めて聞いたとき、何だか前にどこかで聞いたことがあったような懐かしい印象を受けたのを覚えています。

 

 

前奏のピアノ音と電子音から、一昔前の感じを受けます。時代が違うなあ、と。

ここから既に懐かしいです。

 

そして出だしサビ

消える飛行機雲 僕たちは見送った 

眩しくて逃げた いつだって怖くて

あの日から変わらず いつまでも変わらずに

いられなかったこと 悔しくて指を離す

「消える飛行機雲 僕たちは見送った」

地上の僕たちと空の飛行機雲との距離感。消えていくのを見送らざるを得なかったのか。

ゆったりと低い音調で語の最後を伸ばし、澄んだ声が消え入るように歌われるため、出だしから後悔や諦め、憧れや希望などの印象を受けます。

 

「眩しくて逃げた いつだって怖くて」

眩しいとは飛行機雲のことか。

あるいはここでは説明されていない何かのことか。いずれにせよ何か憧れの対象なのかな、と思います。

逃げたとはその憧れを追っていかなかったことでしょうか、はたまた正面から向き合わなかったことでしょうか。

憧れに近づきたくて近づけなかったこと、その悔しさが想像されます。

 

次いで「あの日から」がそこに続いて、その内に抱えた弱さを未だに持っているのかな、、、

次に続く歌詞(ずっと、とか、変わらず、とかいった内容を予測させます)が、その上がり調子のメロディーと共に緊張感を持たせます。

 

「変わらず いつまでも変わらずに」

その期待通りの歌詞、出だしと同じメロディーの繰り返し。少し緊張感が緩みながらも、出だし同様長音が続き、最後のフレーズはどうなるのかと期待します。

 

「いられなかったこと 悔しくて指を離す」

とここでサビが完結し、この連が完結します。

そしてどうやら先ほどの自分の解釈が違っていることに気付かされます。

眩しくて逃げたのは怖かったからではあるけれど、

悔しさの理由は、いつまでも変わらずにいられなかったこと、つまり自分が変わってしまったことを悔やんでいるようです。

 

このようにこの曲に特徴的だな、と思ったのは、

文が完結しないままメロディーが続いていく、というものです。

それに加えてゆったりと間延びした語末。宙ぶらりん状態が続きます。

倒置もあっちこっちで起こっていて、

次の歌詞どうなるの!? 状態がふんだんに使われているのが面白さの一つかな、と思ったりします。

 

あの鳥は まだ うまく飛べないけど

いつかは 風を切って知る

届かない場所が まだ遠くにある

願いだけ秘めて 見つめてる

子どもたちは 夏の線路 歩く

吹く風に 素足をさらして

遠くには幼かった日びを 

両手には 飛び立つ希望を

 

「あの鳥は まだ うまく飛べないけど / いつかは 風を切って知る」

 一番の歌詞は幼い鳥と子どもたちとを重ねています。

鳥を見つめる視点は、二番の風車を見つめる視点と同様、現在のものかと思われます。

まだ何も知らない鳥が、飛ぶことを覚えてから知ることになるものがある、と鳥を見る者が思いをはせています。

 

「届かない場所が まだ遠くにある / 願いを秘めて 見つめてる」

飛ぶことを覚えて遠くに行けるようになっても、まだ遠くに行けるのだと、さらに先を見つめているのでしょうか。

一瞬、前者の歌詞と後者の歌詞の間に断絶があるように思えるのですが、

つまり、

「届かない場所がまだ遠くにある。願いだけ秘めて見つめてる。」

とメロディー的に二文構成になっているように聞こえるのですが、

 

二番の「届かない場所を ずっと見つめてる / 願いを秘めた 鳥の夢を」

という部分を考えると、この部分は

「あの空を回る 風車の羽根たちは / いつまでも 同じ夢見る」

と夢の内容が「鳥の夢」であって、

ゆえにここは、

「届かない場所をずっと見つめてる、願いを秘めた、鳥の夢」

と、鳥の状態を表していると考えられ、

一番と二番の文法的な構成がほぼ同じことを考えると、先の当該箇所は、

「(届かない場所がまだ遠くにある願い)だけ秘めて、見つめてる」

と、一文になることが分かります。

 

願いを持った鳥を見つめているこちら側の視点。

無邪気さをまだ残している鳥に対して、その内知ることになるであろうことを思って、儚さを感じているように思えます。

 

そしてメロディー変わってこの歌詞。

「子どもたちは 夏の線路 歩く / 吹く風に 素足をさらして」

二番の「振り返る 灼けた線路 覆う / 入道雲 形を変えても」

と共にこの歌の中のメロディーの中で最も濃度の濃い映像が流れる瞬間です。

抒情的ですね。

 

先ほどの

「届かない場所が まだ遠くにある / 願いだけ秘めて 見つめてる」

という歌詞がここで効いてきて、幼い鳥の遠くを見つめる視線と、子どもたちの線路を見つめる真っ直ぐな視線とが重なります。

鳥の持つ儚げなイメージが子どもたちに投影されて、子どもたちの姿までもが何かの拍子に壊されてしまいそうな、そんなもろさを感じさせます。

 

「遠くには 幼かった日びを / 両手には 飛び立つ希望を」

だからこその現在の視点からの祈り、願いなのでしょうか。

 

消える飛行機雲 追いかけて 追いかけて

この丘を越えた あの日から変わらず

いつまでも 真っ直ぐに

僕たちはあるように わたつみのような

強さを守れるよ きっと 

  「追いかけて 追いかけて」

と二回繰り返してるのがとても好きです。上を向いて転びそうになりながらも、真っ直ぐに追いかけている純真さ、あどけなさが、とても尊いものに感じられます。

ここでもまた「この丘を越えたあの日から変わらず、いつまでも真っ直ぐにあるように」と願いが込められていますが、ここでついに語り手に誰か特定の相手がいることが明らかになります。

「僕たち」の内のもう一人、「あの日」を共にした大切な人に向けて語り掛けています。

 

「わたつみのような 強さを守れるよ きっと」

と念を押しているのが語り手の強い思いを感じさせます。

 

 

あの空を回る 風車の羽根たちは

いつまでも同じ夢見る

届かない場所を ずっと見つめてる

願いを秘めた鳥の夢を 振り返る 

灼けた線路覆う 入道雲 形を変えても

僕らは覚えていて どうか

季節が残した昨日を

「あの空を回る 風車の羽根たちは / いつまでも同じ夢見る /

届かない場所を ずっと見つめてる / 願いを秘めた鳥の夢を」

「願いを秘めた鳥」とは恐らく一番に出てきた鳥のことでしょう。

幼い鳥。

その夢を見ているということは、幼き日を、あどけなさの残る日々を、未だに夢に見ている。想いが現在でも過去に向いているのでしょうか。

 

「振り返る 灼けた線路 覆う 入道雲 形を変えても /

僕らは覚えていて どうか / 季節が 残した昨日を」

陽炎の出ているような熱気のある中を歩いていく。

線路を振り返る。来し方を振り返る。

また祈り、願い。

あれから周りは変わってしまったけれど、あの夏の日を覚えていてほしい、と。

 

消える飛行機雲 追いかけて 追いかけて

早過ぎる合図 ふたり笑いだしてる

いつまでも 真っ直ぐに

眼差しはあるように 汗が滲んでも

手を離さないよ ずっと

「早過ぎる合図 ふたり笑いだしてる」

ここ一番分からないですね。一体何の合図なのか。さっぱりです。

それでも、幸せな感じですね。

 

消える飛行機雲  僕たちは見送った

眩しくて逃げた いつだって怖くて

あの日から変わらず いつまでも変わらずに

いられなかったこと 悔しくて指を離す

 そして最後のサビ。

伴奏もここでは静かに入り、飛行機雲を見送る二人の黙っている後姿が見えるようです。

そして最後の最後に向けて盛り上がりを見せます。

あれだけの祈り、願いにも拘わらず、

「いつまでも変わらずにいられなかった」

とあります。

気持ちの変容? 二人の関係性? もう会えない?

何かを失っているようです。

その悔しさと思い出の鮮やかさ。鮮やかなだけ一層の悔しさ。

 

とここまでぐちゃぐちゃと考えてみると、ちょっと悲しい曲かもしれません。

 

特別な夏の日、子どもの時分の純粋さ。遠いものへの憧れ。大切な人といつまでも真っ直ぐなままでいたいという祈り、願い。変わってしまった状況。喪失感。それゆえ一層輝きと特別な思いを持つようになる思い出。

 

強烈な郷愁は、こんなところからきているのかもしれないと、妄想逞しうしてみた次第です。

 

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ここまで本当に長々としたとりとめのない駄文にお付き合いいただき、誠にありがとうございました。