働いてないけど幸せ――『働かないふたり』
こんにちは。
小山内藤花です。
自分は就職活動を経験して、社会のごくごく一部を垣間見たにすぎないのですが、
変だなあ、とか、大変だなあ、とかいったネガティブなイメージを抱かずにはいられませんでした。
人事担当の方を始め、
出会ってきた多くの方々は、
仕事はお金を得るために、生きていくために必要、
という認識が支配的であって、
中にはとても疲れているような顔をしている方もいらっしゃいました。
世間から落伍しないようにしなくては。
もしついていけなくなってしまったら、人として認められなくなってしまう。
そんな強迫観念がこの社会にはあるようです。
そんな奇妙な雰囲気の中、少し肩の荷が下りるような思いをさせてくれたのが、
下に挙げる『働かないふたり』という漫画でした。
『働かないふたり』とは?
『働かないふたり』は、新潮社のWEBコミックサイト『くらげバンチ』に2013年12月から連載している、吉田覚による作品で、
ニートの兄妹とその周りの人間の日常を描いた漫画になります。
極度に人見知りな妹・春子(はるこ)と、社交的で多彩な才能を持ちながらも、家に居続ける兄・守(まもる)。
二人は仲が良く、一緒にテレビを見たり、ゲームをしたり、様々な遊びをしたり……。
また、ニートという世間一般的には眉を顰められがちな立場にあるものの、二人は様々な人間と関わり合いながら、毎日のんびり、楽しく暮らしております。
石井兄妹の周りの 多様な人間
ニートでありながら、二人は実に多様な人々とつながりを持ちます。
守の友人である丸山と共に、二人の家に入り浸るようになる倉木さんという人物は、
自分の住んでいるマンションの窓から見えていた、兄妹の楽しげな様子を観察して日々癒されていた、というOLさんで、若干ストーカーまがいの行為を自認しつつも、二人と仲良くなりたいという思いから、ある日思い切って声をかけたという人。
高校時代に付き合いのあった春子の友人たちは、クラスで孤立していた人物たち。
ユキちゃんは大柄で喧嘩が強い上に短気だったという理由で、
友晴くんは好きになった人が男性だったという理由で、
また、れなちんは容姿が良くて、交際相手を次々と変えていったために女子から嫌われていたという理由で、
あまりものだった春子と関わるようになり、仲良くなった経緯があります。
守に関しては、よくつるむ同級生以外にも、交友関係をどんどん広めていきます。
父親の部下である、本好き仲間の戸川さん。
散歩途中に気分が悪くなっているのを助けたおばあさん・すみよさん。
春子の友人・ユキちゃんの姉やご両親。
公園で打球からかばった定年退職したおじいさん・飯塚さん。
また、守と関係した人たちは、あたかも守を通してつながっていくかのように、
次第に関わりを持つようになっていきます。
本作の魅力
生きづらさを抱えていても
この作品には様々な人が登場しますが、大なり小なり世間から少し外れている人、世間に疲れている人が少なくありません。
石井兄妹以外にも、春子の友人ユキちゃんの姉と父親も無職です。
守の友人・丸山は守のことを悪く言う人物に会います。
春子の友人・ユキちゃんは内面は乙女でかわいらしいものに憧れていますが、大柄なのがコンプレックスでかわいらしい服を着たり、恋愛をしたりするのが苦手です。
一人で転んで泣いている子を助けようとした守を、自分の子を泣かせた張本人だと思い込んだ母親は、一人での子育てに疲れていました。
しかしながら、そのような人々が石井兄妹と関わっていく中で、二人から影響を受けたり、また別の誰かとつながったりして生きていきます。
中には彼らを蔑んだり、憐れんだりする人もいるかもしれませんが、
互いに受け入れ合いながら、支え合いながらつながりを築いていく様は、
とても尊いものと思われます。
ゆったりとした時間
また、石井兄妹の周りに人が集まってくるのは、二人のまとう空気が一つの要因だと考えられます。
ニートゆえに時間だけはたっぷりあって、昼寝をしたり、散歩したり、本を読んだり、ゲームをしたり……
また、子供じみた無邪気な下ネタや、思い付きのお遊びなんかでふざけたり……
お金や社会的地位こそありませんが、
急ぐ必要のない、人と無理に合わせる必要のない、気取ったところのない、非常にゆったりとした時間が流れていることは、周りの人たちにとって心地よい居場所になっているのだと思われます。
『働かないふたり』においては、抒情的な描写が取り入れられるのも特徴的だと思います。
夕日を素直に美しいと感じられることが、とても大切なことのように思えてなりません。
まとめ
今回は、ニートの兄妹の日常を描く『働かないふたり』という漫画を紹介しました。
働いていないこと=社会不適合と考えられがちな世の中において、
この二人はなぜかとても幸せそうに生きています。
人より少しでも幸せに……そんな階級闘争のごとき気が狂いそうな社会の中で、
彼らの送る、のほほんとした生活に触れてみれば、
心の中の硬くなった塊が、ゆるんでほどけていくのではないでしょうか。
ここまで読んでくださってありがとうございました。